アコースティック・ピアノをバックにした簡素なデモから壮大なプロモーション・ビデオへと発展を遂げたロック史に残る名バラード「November Rain」の軌跡をたどってみよう。
白い小さなチャペル、大掛かりなプロモーション・ビデオ、曲の終わりのむせぶようなギター・ソロ。「November Rain」と聞けば、そんなものを思い出されるだろう。情熱的なヴォーカルが印象的な同曲は、ヒット・シングルとして屈指の長い演奏時間を誇り、ガンズ・アンド・ローゼズの最も野心的な試みでもあった。今や同曲はロック史に残る最高のバラードに数えられる。
この曲が発表されたのは1991年9月の『Use Your Illusion I』に収録されてのことだったが、アクセル・ローズが「November Rain」を書いたのはその10年ほど前のことだった。アクセルの元バンドメイトでLAガンズのギタリストだったトレイシー・ガンズは、アクセルが1983年に同曲の作曲に着手したと回想している。直近の『Appetite For Destruction』スーパー・デラックス・エディションの発売で、同曲がガンズ・アンド・ローゼズの扇動的な同デビュー・アルバムに収録される可能性があったこともようやく明らかになった。
「November Rain」 ピアノ・デモ
1986年にサウンド・シティ・スタジオで行われた『Appetite For Destruction』収録曲のレコーディングで、「November Rain」のピアノ・デモが作られている。10分に及ぶデモで、アクセルは楽曲の枠組みとなるパートを演奏している。ピアノとヴォーカルだけの同デモは、荘厳なピアノのイントロから曲調の変わるアウトロまで、すでに後の完成版「November Rain」としての形を成している。ただ、ストリングスやスラッシュの腕が光るギター・ソロがないだけだ。バック・コーラスはすでに入っており、アクセルの気迫がこもったリード・ヴォーカルを彩っている。最終ヴァージョンのヴォーカルは、アクセルのキャリアでも最も感情的な名演のひとつである。
「November Rain」 アコースティック・デモ
同曲には、ずっと短い約5分のアコースティック・ギターによるデモも存在している。どうやら、アコースティックでの仮ヴァージョンは初期のギグでも披露されていたようだ。1986年のサウンド・シティでの同デモは、指弾きのギターと柔らかいパーカッションを中心に進んでいく。そこへアクセルのヴォーカルが入り、彼はときおり”I just keep on walking”というパートを繰り返し歌う。このヴァージョンは静かな終わり方になっているが、ふたつを比較すると、明らかに「November Rain」はピアノ向きの曲といえるだろう。
『Use Your Illusion I』収録ヴァージョン
5年のときを経て、骨の折れるレコーディングの末、「November Rain」はようやく日の目を見ることとなる。1991年9月17日に発売された『Use Your Illusion I』の中核を担う楽曲として収録されたのだ。1992年2月18日には、同アルバムから3枚目にして最後のシングルとしてもリリースされている。シングルとしては米チャート3位、イギリスのチャートでも4位を獲得。バンドにとっては「Sweet Child O’ Mine」以来のヒット曲となった。米チャートの歴史で最も長尺の楽曲となった同曲は、オーストラリアのチャートでも22週間に亘りトップ10入りを果たしている。
8分58秒の演奏時間を誇る「November Rain」の最終ヴァージョンは、1986年のピアノ・デモとほとんど同じ構成になっている。しかしバンド全体の演奏になったことで楽曲が完成し、アクセル自身が手がけたストリングス・アレンジも楽曲に華をそえている。こうして「November Rain」はようやく出来上がった。アクセルの情熱的なヴォーカルは彼のキャリアでもベストのひとつといえるだろう。一方で6分48秒からの曲調転換部分も、7分9秒から入るスラッシュの名ギター・ソロを含め、同曲を実に壮大なものに仕上げている。
プロモーション・ビデオ
壮大な「November Rain」だが、ビデオがその壮大さをさらに高めている。
プロモーション・ビデオというよりショート・ムービーに近い同ビデオは、「Don’t Cry」「Estranged」、そして「November Rain」のビデオから成る3部作の中編に位置付けられる。スーパーモデルでアクセルの当時の恋人だったステファニー・シーモアが出演したビデオは、「Don’t Cry」のビデオの続きになっている。「Don’t Cry」ではシーモアがアクセルの自殺を止め、今度はふたりが結婚するのだ。
悲運な結婚式のシーンから始まり(スラッシュのギター・ソロはニュー・メキシコの砂漠地帯にある教会で撮影された)、バンドが集まるのはロサンゼルスのサンセット・ストリップにあるレインボー・バー・アンド・グリル、ライヴのシーンにはニューヨークのザ・リッツが使われた。このビデオは短編集『The Language Of Fear』を著した記者で作家のデル・ジェイムスの短編小説「Without You」を基にしている。
総予算100万ドル(約1億円)が投じられた「November Rain」のビデオは、数多いプロモーション・ビデオの中でも屈指に大掛かりなものだったといえる。ブレイクのきっかけとなった「Welcome To The Jungle」ほどの影響力はなかったものの、「November Rain」はリリース時、すぐにMTVで最もリクエストされたビデオとなった。2019年7月14日には、YouTubeの再生回数が10億回を突破。楽曲を語る上でなくてはならないひとつの要素として、このプロモーション・ビデオは、「November Rain」がガンズ・アンド・ローゼズの代表曲となり、またロック史上最高のバラードとなる上で重要な役割を果たしたのだった。