SLASH Interview : GUNS N' ROSESのスーパー・ギタリスト SLASHのルーツを辿る。約14年ぶりの完全ソロ名義作

激ロック 2024.05 (2024年06月号掲載)
Interviewer:Generic Interview 2024 / Translator:内堀 文佳

GUNS N' ROSESのギタリスト SLASHが、約14年ぶりの完全ソロ名義作『Orgy Of The Damned』をリリース! 史上最高のギター・ヒーローのひとりであるSLASHのルーツを辿る、ブルースとソウルの名曲のカバーを収めたこのアルバムに花を添えるのは、Brian Johnson(AC/DC/Vo)、Steven Tyler(AEROSMITH/Vo)、Billy F Gibbons(ZZ TOP/Gt/Vo)、Iggy Pop、Paul Rodgers、Demi Lovatoなど、これまた超豪華アーティストたち。激ロックではそんな本作の制作の裏側に迫るべく、SLASHへのジェネリック・インタビューを入手した。

-まずは『Orgy Of The Damned』の完成おめでとうございます! 大変熱のこもった、深みのある面白いアルバムになりましたね。

どれだけ深いかはわからないけど(笑)、作っていてとても楽しいアルバムだったよ。すごくいい環境で、スタジオでレコーディング・セッションができたよ。少なくともバンドのほうは。シンガーは別のタイミングになってしまったけど、バンドの演奏はスタジオでジャムってできたんだ。とても楽しかったよ。

-収録された12曲はとても幅広く、まるで時空を超えた旅のようです。

うん、ブルース・アルバムと銘打たれてはいるけど、実際にはブルースと、オールドスクールなロックンロールと、あとはR&Bなんかもミックスしたような感じなんだ。

-90年代のSLASH'S BLUES BALLとしての活動のことを思うと、長年の夢が叶った形だったのではないでしょうか。当時のライヴは一切作品化されていません。

SLASH'S BLUES BALLは90年代後半にブルースとかのカバーをするために作ったジャム・バンドで、ずっと作品として形にしたかったんだけど、ほかのいろいろな活動でずっと忙しくてね。それでやっとGUNS N' ROSESのツアーの合間でひと息ついたときに、"そうだ、あのアルバムを作ろう"ってことで、当時一緒にやっていたJohnny Griparic(Ba)やTeddy "Zig Zag" Andreadis(Key)に"スタジオに入ろう"って連絡したんだ。昔のセットリストから曲を選んだり、新しくやりたいと思いついたアイディアをジャムったりして、そこにヴォーカルとギターでTash Neal、ドラムでMichael Jeromeを入れて、すぐに取り掛かり始めたよ。

-この作品はあなたに大きな影響を与え、あなたを形作ったサウンドに迫るものですから、このアルバムを作ることはマストだったのではないでしょうか?

そうだね。ギターを始めたとき、最初に奏でた3~4音はブルース・ソロの基礎的なものだったんだ。それが自分の一番のルーツになっている。そこにパンク・ロックだったりヘヴィ・メタルだったり、15歳の自分にとってビッグだったものを足していったから音は変わっていったけど、それが常に俺の作品の根本にあったんだ。だからクラブでいろんな人とジャムをしてブルースをやるときのヴァイブや雰囲気は俺にとって昔から心地のいいもので、今回の作品はそれをバンドとしてやるのにとてもいい手段だったよ。

-初めて出会ったときからあなたにとっての"ヒーロー"、手本となるような存在はいましたか? 例えばRobert Johnson、Muddy Waters、John Mayallのような。

初めての純粋なブルースの影響として記憶にあるのはB.B. Kingだね。ギターを始めるよりずっと前に、祖母がB.B. Kingの曲を聴かせてくれて、それが当時の自分に訴え掛けてきたんだ。アメリカに来たばかりの頃だったと思う、7~8歳だったかな? その年頃は自分の好きな音を見つけている段階で、それがなんというものなのか、誰の音なのかなんて知らないし、特に興味すらなかったりする。ただただ音に惹かれていたんだ。俺は子供のときから数々の素晴らしい音楽に触れてきた。ブルース、R&B、ロックンロール、それにフォーク・ミュージックもね。だけど15歳頃になってギターを手に取ってみると、自分が面白いと思う音を並べるようになっていって、Eric Clapton、Jimmy Page、Jimi Hendrix、Jeff Beckとかを聴くようになると、あの頃聴いていたB.B. Kingのアルバムまで戻ってきていたんだ。だからそのイギリスのギタリストたちがAlbert King、B.B. King、Robert Johnson、Little Walter、Muddy Waters、Lightnin' Hopkins、John Lee Hookerに興味を持つきっかけになったんだよ。俺のプレイは今でも一番好きなブルース・ソリストのAlbert King、B.B. King、Freddie King の3大キングと、あとMuddy Watersに大きな影響を受けているんだ。

-初めて『Orgy Of The Damned』を聴いたとき、アルバムのタイトルは"Last Man Standing"でも良いかと思ったのですが......。

冒頭で"深み"についてちょっと皮肉っぽく言ったのは、このアルバムがただ楽しんだだけのものだからなんだ。計画もなく、調査や分析もほとんどせず、ただジャムって上手くいきそうなアレンジを考えたりしただけで。だけど本当に気楽で、リラックスして楽しんだよ。

-あなたは今作の「The Pusher」や「Oh Well」、「Stormy Monday」といったカバーの定番曲に対し独自のアプローチをとり、見事にゆったりとさせたうえで、それぞれほかの11曲と上手くはまっています。それにはご自分でも驚きましたか? それとも最初からわかっていたことだったのでしょうか。

11曲っていうのは、年月を経て"少ないほうが豊か"だと学んだ結果なんだよ。だから今まで自分が影響を受けてきたすべてのブルースの曲を録って、アルバムに20曲収録するなんてことはしたくなかったんだ、1枚に収めるには多すぎるからね。みな途中で飽きてしまう。だから基本的には10曲に収めるようにしているんだけど、オリジナル曲を1曲ギリギリで追加することになったんだ。でも基本的には「Born Under A Bad Sign」、「Key To The Highway」、「Papa Was A Rolling Stone」のように、絶対にやりたい曲は決まっていて、それ以上は増やさないようにしたんだよ。

-『Orgy Of The Damned』では「Papa Was A Rolling Stone」など、ジャンルの境界に触れるような楽曲も収録されていますが、最終的には見事にひとつの作品としてまとまっています。

そういう曲は、90年代に(SLASH'S)BLUES BALLで「Superstition」のカバーをしていたんだけど、それから何年も経って、このリフがやりつくされていることに気がついたんだ。たくさんの人にとっての鉄板リフなんだよ。だからこの曲は選びたくなかった。「The Thrill Is Gone」を選ばなかったのも同じ理由。みんながやっていて新鮮味がないからね。だけどStevie Wonderの曲は入れたくて、俺が8歳ぐらいのときに『Innervisions』っていうアルバムが出てから「Living For The City」がずっと好きだったから"この曲に挑んでみよう"ということになったんだ。そうしたらTashがすごく上手く歌ってくれたし、こんなに毛色の違う曲にしてはなかなかいい出来になったよ。で、「Papa Was A Rolling Stone」はJohnny GriparicとSLASH'S SNAKEPITのツアーでジャムってて、ヴォーカルのRod Jacksonがいい歌を乗せてくれてね。だから今回はこの曲をやりたかったんだけど、男性ヴォーカルでソウルのサウンドを前面に押し出したTHE TEMPTATIONSバージョンをなぞるより、若い女の子が同じ歌詞を歌ったほうが面白いと思ってDemi(Lovato)に連絡したんだ。すごく上手くいったと思う。

-『Orgy Of The Damned』はセッションでレコーディングしたことで、楽曲が素晴らしいエネルギーやヴァイブを持つ大きな要因になりました。

うん、演奏はセッションだったよ。シンガーは何人かは来てくれて、Beth HartやGary Clark Jr.はスタジオでセッションして録ったけど、他は音源を持ってそれぞれのところまで行ってヴォーカルのレコーディングをしないといけなかったんだ。

-『Orgy Of The Damned』に迎えるゲストはどのような基準で選ばれたのでしょうか?

曲を選んで、"この曲には誰が合うだろうか?"と考えただけだよ。そして実際にそれで上手くいったんだ。タイミングの問題で唯一Steven Tyler(AEROSMITH/Vo)だけ今回のアルバムでは歌ってもらえなかったんだけど、後日ハーモニカで参加してくれたよ。あともうひとり、このアルバムに参加してもらいたかったのはLemmy(Kilmister/MOTÖRHEAD/Ba/Vo)だね。間違いなくこのアルバムにぴったりだったし、彼がもういないことが本当につらいよ。彼が亡くなっただけでも本当に悲しかったのに、それから数年経ってアルバムを作っていて、そのときどの曲のことを考えていたかは忘れてしまったけど、"クソ、Lemmyにぴったりなのに。きっと喜んで参加してくれただろうに"と考えていたんだ。本当に残念だよ。

■ Brian Johnson(AC/DC)、Billy F Gibbons(ZZ TOP)、Iggy Popら、超豪華ゲストと奏でるブルースの名曲たち

-ここからは1曲ずつについて教えてください。まずは「The Pusher Feat. Chris Robinson」。

STEPPENWOLFの素晴らしい曲で、すぐにChris Robinson(THE BLACK CROWES /Vo)が思い浮かんだよ。

-次に「Crossroads Feat. Gary Clark Jr」。

あぁ、「Crossroads」はGaryと一緒に仕事をするいい口実だったんだ(笑)。いや、もともとはRobert Johnsonの「Cross Road Blues」をやるつもりだったんだけど、もう少しアップビートにしたかったからCREAMの路線で行ったんだ。

-では「Hoochie Coochie Man Feat. Billy F. Gibbons」について。

Billy F Gibbons(ZZ TOP/Gt/Vo)は俺の長年のいい友人のひとりで、俺のギターに最も影響を与えたひとりでもあってね。Muddy Watersの曲をやりたくて何曲か候補があったんだが、最終的に「Hoochie Coochie Man」を選んで、"歌うならBillyだな"と思ったんだ。

-「Oh Well Feat. Chris Stapleton」はいかがでしょう。

それはもう少し面白い話がある。俺は今までこの曲を演奏したことがなかったんだが、1977年頃だったかに初めて聴いてから、ずっと好きな曲のひとつなんだ。いつかこの曲をやりたいと思っていたのが今回のアルバムでやっと叶ったよ。それで今まで何度か一緒にショーをしたことがあるChris Stapletonが思い浮かんで、彼のような声がこの曲に乗ったら最高だと思ったんだ。

-「Key to the Highway Feat. Dorothy」。

これはBLUES BALLの定番曲だったんだ。90年代にメンバーとクラブでジャムったりしていたときの曲で一番に思い浮かんだもので、俺たちが演奏するバージョンが好きだったんだよ。ほかの誰のものとも全然違ってね。少しアップテンポで、Freddie Kingのバージョンに近い感じで。とにかく、俺にとってBLUES BALLといえばこの曲だったんだ。

-「Awful Dream Feat. Iggy Pop」。

これはIggyが選んだんだ。唯一のシンガー自身が選んだ曲だよ。誰かからIggyがブルース・アルバムをやりたいと思っていると聞いたから、なんの曲がやりたいのか連絡したらLightnin' Hopkinsの「Awful Dream」って具体的に言うんだ。それで聴いてみたら良かったから、会って俺とIggyのふたりだけで丸椅子に座ってセッションしたんだ。クールだったよ。

-「Born Under A Bad Sign Feat. Paul Rodgers」。

「Born Under A Bad Sign」は前からやりたいとは思っていたけど、たくさんの人がやってるから少し気乗りしないところもあったんだ。でもポピュラーな曲だけど、死ぬほどやりつくされているというほどでもないし、このリフを弾くことは俺にとって大事なことだからやることにした。そしてPaulに頼むことに一切迷いはなかったね。初めて彼と仕事をしたのは彼のMuddy Watersトリビュート・アルバム(『Muddy Water Blues: A Tribute to Muddy Waters』)での「The Hunter」だったから、これが彼にぴったりだってわかっていたんだ。

-「Papa Was a Rolling Stone Feat. Demi Lovato」。

彼女はすごくいい仕事をしてくれたよ。すごく心がこもっている。彼女にこの曲のことを連絡したときに、歌詞に共感していたんだ。彼女の過去に何かこの歌詞と関連することがあったんだろうね。詳しくは聞かなかったけど、間違いなく心と魂がこもっていたよ。

-「Killing Floor feat. Brian Johnson」。

これもずっとやりたかったけどその機会がなかった曲だったから、このバージョンができて楽しかった。しかもギターを始めたときからAC/DCとAEROSMITHが好きでBrian(AC/DC/Vo)とStevenは俺にとってのヒーローだったから、この曲に参加してくれるなんて本当に光栄だったよ。

-「Living For The City Feat. Tash Neal」。

実はTashと俺はロサンゼルスのブルース系のフェスみたいなライヴに出たときに出会ったんだ。すごいアーティストがたくさん出ていて、彼もそのひとりでね。それまで会ったことも聞いたこともなかったんだけど、歌を聴いて"彼は何者なんだ?"となったんだ。それでショーのあとに会ったらすごくいいやつで。2019年に(SLASH FEAT. MYLES KENNEDY & THE)CONSPIRATORSで前回のアルバム(2018年リリースの『Living The Dream』)のツアーを回ったときにTashのバンドにオープニング・アクトをやってもらって、最高だったよ。それでこのブルース・アルバムを作ることになって、"Tashにも参加してもらおう"ということになったんだ。

-「Stormy Monday feat. Beth Hart」。

あぁ、それは実はリハーサルのテイクなんだ(笑)。俺は録っていることすら知らなかったよ。スタジオに入って、その日の最初の曲だった。メジャーの原曲を、Bethの要望でマイナーにアレンジし終えたばかりで、スタジオに彼女も到着すると歌い始めたんだ。Jeff Beckの告別式からそのまま来ていたからとても感情的になっていて、録ったのはその1テイクだけだったけど、それですべてを出し切って、歌い終わると崩れ落ちてしまった。

-最後に「Metal Chestnut」。

今回のアルバムのために書き下ろした曲だよ。プリプロダクションをほとんど終えてスタジオに入るというところでプロデューサーのMike Clinkが"オリジナル曲はあるのか?"と聞いてきたんだ。俺は"いや、それはあまり考えていなかったが、少し待ってくれ"と言ってスタジオに戻って、ちょっとしたメロディを作った。自然と直感的にできた、一発録りのような曲だよ。ブルースっぽいけどブルースではない、俺が俺らしくしてるだけだね。

-このアルバムで特に気に入っている曲はありますか?

俺はいつも"いや、特に気に入っている1曲はないな"と言うタイプなんだ(笑)。とはいえ、例えばDOROTHYが最高な歌を乗せてくれた「Key To The Highway」みたいにセンチメンタルな思い入れがある曲もある。あの曲が、今回のアルバムで一緒にやっているメンバーと繋げてくれたんだ。だけどどの曲も俺にとって個人的な意味があるよ。

-今の音楽シーンで興味を惹かれる部分はありますか?

ブルース・シーンは今活気づいていて最高だよ。ロック・シーンもそうだったら良かったんだけど(笑)、今のブルース・シーンは今後が楽しみなプレイヤーがたくさんいるんだ。たくさんの若者が自分の力でロックンロールをやっててね。レコード会社や、90年代~2000年代にあったくだらない問題から離れたところで、自分のために音楽を作っているんだよ。誰も金儲けしようとしていないし、誰も大型レコード契約を狙ってないし、誰もリムジンや女みたいな、そういう野心を持っていない。何よりも作品が最優先なんだ。ロック・シーンの復活にもこれが重要だと思うし、ロック・シーンはいつだって復活しうるはずなんだよ。まぁ、とは言ったけど最近俺が聴いているのではTHE BLACK CROWESの新作(『Happiness Bastards』)やQUEENS OF THE STONE AGEの新作(『In Times New Roman...』)なんかが良かったから、特にすごく新しい人たちというわけではないけど、新作は聴いているよ。

-今年の夏には自らブルース・フェスを開催して、ツアーを回りますね。こちらについても教えてください!

あぁ、"S.E.R.P.E.N.T Festival"だね。アメリカで7月から始まって、俺のほかにEric GalesやSamantha Fish、Christone "Kingfish" Ingram、Warren Haynesとか、いろんな人が出るフェス形式で開催するんだ。各地の野外円形劇場を回る、とても楽しいものになるはずだよ。これが成功したら毎年やるつもりで、海外での開催も考えるかもしれないね。

-今後の予定などは決まっていますか?

まずはこのフェスがあって、そのあとは次のCONSPIRATORSのアルバムを完成させて、それからGUNS N' ROSESで集まって次のアルバムをどうするか話すことになるよ。

-最後にファンにメッセージをひと言お願いします。

(笑)やぁ、SLASHだよ。俺の新しいカバー・アルバム『Orgy Of The Damned』のプロモーションをしているんだ。きっと気に入ってくれると思うから、楽しんでくれ!