制作過程とスラッシュの発言から読み解くガンズ・アンド・ローゼズ『Use Your Illusion』

uDiscoverMusicJP 2022.10
‘Use Your Illusion’: Guns N' Roses Gets Bigger And More Ambitious
udiscovermusic.com 2022.10.21 By Tim Peacock

世界一のロック・バンドになった後には一体何をするのか? デビュー・アルバム『Appetite For Destruction』が何百万枚ものセールスを記録した後、ガンズ・アンド・ローゼズ(Guns N’ Roses)はこの問いに直面した。そしてその答えとして彼らは自分たちの芸術的な願望を倍増させ、野心的で度肝を抜く2枚のアルバム『Use Your Illusion I』と『Use Your Illusion II』を同時リリースしたのだ。

フロントマンのアクセル・ローズは1990年、米ローリング・ストーン誌にこう語っている。

「自分たちを定義したいんだ。“Appetite For Destruction”は俺たちの礎であり、出発点だった。あれは“ここが俺たちの土地で、地面に杭を打ったところだ。ここにこれから何かを作るんだ”という感じだったんだ」

そしてアクセル・ローズの言葉通り『Use Your Illusion』の2枚のアルバムは、現在ではガンズ・アンド・ローゼズの最も重要な芸術的作品として広く認められている。しかし一方で、アルバムの制作は何度もバンドを破滅させそうになった。

初期のセッション
1989年6月、シカゴで行われた最初のプリプロダクション・セッションで新曲を制作しようとした時、バンドは混乱状態にあった。リズム・ギタリストのイジー・ストラドリンはしばしば姿を見せず、アクセル・ローズはセッションに出たり入ったりしていた。退屈で気が散ることも多く、バンドの他のメンバーは新しい音楽の方向性に合意できなかった。

リード・ギタリストのスラッシュは、このフラストレーションのたまる当時の時期について、クラシック・ロック誌にこう語っている。

「『Appetite For Destruction』と比べると、確かに探索的だった。正直なところ、もう少しストレートな10曲だけのレコードを作りたかったんだけど、(Use Your Illusionは)バンドが再び動き出すきっかけになったんだ」

今にして思えば、シカゴのセッションは大失敗ではなかった。バンドはこの時期に、「Garden Of Eden」やエアロスミス風の威勢のいい「Bad Apples」など、『Use Your Illusion』の主要曲の基礎を作り上げた。

もうひとつの重要な曲「Estranged」は、アクセル・ローズがシカゴでスタジオのピアノを弾いて過ごした時間の結果である。この典型的ではない感情的なバラードの作曲アプローチはレコーディング初期の決定的な突破口となり、『Use Your Illusion』が『Appetite For Destruction』よりはるかに広い範囲をカバーすることを示唆していることを表している。

ロサンゼルスへの刺激的な帰還
ロサンゼルスに戻った後も、ガンズ・アンド・ローゼズは新しいレコーディングを軌道に乗せるには克服すべき多くの問題を抱えていた。スラッシュがクリーンになったものの、バンド内にはまだ麻薬が蔓延していたことが大きな原因の一つだった。スラッシュはクラシック・ロックのインタビューでこう語っている。

「あの頃、俺は個人的にどうだったんだろうな? まあ、そのころには麻薬はやめていたから、調子はよかったんだと思う」

L.A.のリハーサル・スペースで行われた一連のジャム・セッションは、ガンズ・アンド・ローゼズのメンバーが同じ量のドラッグを摂取しなくても、音楽的な化学反応を起こすことをさらに確認させるものだった。自信を深めたバンドは、ザ・ローリング・ストーンズのサポートとしてアメリカでツアーを行い、新たに見出した創造性にすがり、ロサンゼルスのローレル・キャニオン・ヒルズにあるスラッシュの自宅で2晩にわたる熱狂的な作曲セッションを始めたのだ。

この集中的なセッションの間に、スラッシュ、アクセル・ローズ、イジー・ストラドリン、そしてベーシストのダフ・マッケイガンは、「The Garden」だけではなく、ダフがジョニー・サンダースに捧げた「So Fine」、アクセルの激しい反メディア的な「Get In The Ring」といったような『Use Your Illusion』のベスト・ソングを完成させることができた。

また、「Double Talkin’ Jive」などのイジーが作曲した曲も数多く手がけた。この曲は、以前のレコーディング・セッション中に、スタジオの裏のゴミ箱からバラバラになった死体の一部が警察に発見されるという、特に悲惨な実話にインスパイアされたものである。スラッシュは後に自身の回顧録『Slash: The Autobiography』でこの曲についてこう記している。

「(事件について)俺たちが知っていたのは、俺たちは何もやってないということだけだった。でも、イジーはその出来事を“Double Talkin’ Jive”の歌詞にしたんだ。そして俺はその中でスペインのフラメンコのパートを少し弾くことになったよ」

新しいドラマーの加入
この頃、ガンズ・アンド・ローゼズ陣営の状況は上向きになっていた。しかしながらバンドが初めて本格的にスタジオに入り、壮大なプロテスト・ソング「Civil War」を制作したとき、『Use Your Illusion』の完成に集中する前に、別の問題に取り組まなければならないことに気がついたのだ。スラッシュは後にこう語る。

「あれは(ドラマーの)スティーヴン(・アドラー)とスタジオに入ったときの最初の曲だった。そして、彼の演奏が適切でないことに気づいたんだ」

彼の後任として、バンドは元英国の人気ロック・アクト、ザ・カルトのマット・ソーラムを起用した。スラッシュはこう語っている。

「ザ・カルトでのマットの演奏を見て、彼が良いドラマーだと思い、電話して来てもらったのを覚えてるよ。この曲のリハーサルを始めて、気がついたらスタジオに入っていたんだ」

レコーディング・セッション
新しいドラマーを迎えたガンズ・アンド・ローゼズは、『Appetite For Destruction』のプロデューサーであるマイク・クリンクの協力を得て、ようやく2枚のアルバムの基礎を固める準備が整った。膨大な量の新曲があるにもかかわらず、セッションは比較的早く終了した。スラッシュはクラシック・ロックにこう語っている。

「俺たちはいつもやっていることをやった。バンドと一緒にスタジオに入り、1つの部屋で曲をライブ演奏し、それがレコードに収録される。俺はヘッドフォンが好きじゃないから、バンドと一緒にスタジオに入って演奏して、雰囲気やエネルギーを味わうんだ。その後、コントロール・ルームで自分のギター・パートを演奏するんだ。気がつけば、36日間で全曲のベーシック・トラックを完成させていたよ」

最初のセッションはスムーズに進んだが、丹念なオーバーダビングには時間がかかり、アルバムのミキシング段階で再び緊張が表面化。その結果、エンジニアのボブ・クリアーマウンテンを、パンクの名作であるセックス・ピストルズの『Never Mind The Bollocks…Here’s The Sex Pistols』やザ・クラッシュ『London Calling』で知られるビル・プライスに代えることになった。スラッシュは、『Use Your Illusion』の2枚のアルバムを完成させるのが難しいことについてこう語る。

「30曲の異なる曲、異なるアプローチ、異なる時期に書かれた曲がある場合、それぞれの曲を特定の色に染めたいものだ。それは俺たちが慣れている従来のやり方よりも知的なアプローチを必要としたんだよ」

2枚のアルバムが持つ多様性
スラッシュのコメントを裏付けるように、『Use Your Illusion』の両作品に見られる多様性の幅は、ガンズ・アンド・ローゼズが男性ホルモンを煽るみだらなアンセムよりもはるかに多くのものを提供できることを実証している。

例えば『Use Your Illusion I』には、スラッシュがイジー・ストラドリンとハリウッド・ヒルズで同居していた頃に書いたという10分の大作「Coma」が収録されている。この強烈でリフの多い曲は、スラッシュが自身の回顧録で「繰り返されるパターンが次第に数学的になっていく」と表現したものがベースとなっている。そしてこの曲は、今日でもその催眠術のような存在感を失ってはいない。

その他、『Use Your Illusion I』では、ガンズ・アンド・ローゼズがポール・マッカートニーのウイングスによる映画「007 死ぬのは奴らだ」の主題歌「Live And Let Die」を驚くほど効果的にカバーし、あらゆるロックファンを驚かせている。

スラッシュとアクセル・ローズは、この曲が大好きだということをお互いに知って、この曲に取り組むことにした。しかし、バンドのドラマチックな曲のテイクには、独自のパワーがあり、その多くは、アクセルがこの曲のシンセサイザーのアレンジを担当したことに起因すると、スラッシュは後にこう語っている。

「アクセルがやったことは本当に複雑なんだ。彼は何時間もかけて…ニュアンスを正しく表現してくれたよ」

しかし、アクセルが真価を発揮したのは「November Rain」「Estranged」「Don’t Cry」といったバラードであった。「Don’t Cry」は英米でトップ10ヒットとなったが、アクセルが1980年代半ばから取り組んでいた賞賛すべき「November Rain」に比べると、あまり評価されていないようだ。

『Use Your Illusion I』のために最終的に完成した「November Rain」は9分にも及び、華麗なピアノの旋律、シンセサイザーでプログラミングされたストリングス、そして3種類以上の鋭いスラッシュによるギター・ソロを誇っている。その後、全米シングルチャートでは3位を記録し、150万ドルをかけた豪華なプロモーション・ビデオも制作された。この曲は間違いなくガンズの最も壮大な楽曲であり続け、2018年には1990年代のミュージック・ビデオとして初めて10億回再生を達成し、現在は20億回を越えようとしている。

『Use Your Illusion II』には、ガンズ・アンド・ローゼズが最も革新的だった例も数多く収められている。ハードなプロテスト・ソング「Civil War」では、1967年の映画『暴力脱獄』の台詞の断片からペルーの武装組織センデロ・ルミノソの幹部の演説の抜粋まで、様々なサンプルを使用し、「Locomotive (Complicity)」では、レッド・ホット・チリ・ペッパーズやフェイス・ノー・モアにも似たファンク・メタルのノリでガンズ・アンド・ローゼズが躍動している。このアルバムの最後を飾る「My World」は、バンドが2008年の『Chinese Democracy』でさらに探求することになるインダストリアルとエレクトロニックのスタイルへの道筋さえ示している。

リリース後の評判
1991年9月17日の『Use Your Illusion』2枚同時発売は、その年のロック界最大の出来事のひとつとなった。1987年のデビュー・アルバム『Appetite For Destruction』の後、急ごしらえの『G N’ R Lies』しかバンドはリリースしていなかったため、ガンズの新曲を渇望していたバンドのファンたちは、すぐに2枚の新作を食い入るように聴きいった。

当然ながら、この2枚のアルバムは全米アルバムチャートで1位と2位を独占し、やや親しみやすい『Use Your Illusion II』が初週だけで77万枚を売り上げて1位を獲得した。シカゴ・トリビューン紙のレビューでは、「野心、音楽性、プロダクション、ソングライティングにおける驚異的な飛躍」と紹介され、歴代のロックファンからも確固たる人気を獲得した。

2021年にスラッシュがLouder Soundにこの作品についてこう語っている。

「振り返ってみると、記念碑的な業績だった。2枚のアルバムについて考えるとき、最初に思い浮かぶのは、あの特別な時期に様々なことが起こり、それが渦巻いていたってことだ。でも、あのレコードを作ることができたのは大きな成果だったよ。“Use Your Illusion”のレコードは、裏話を知れば勝利だったと思う。壮大な旅だった。そして、そのすべての後に、俺たちは成し遂げたんだ」